日本発のブティック・アンプメーカーSHINOS AMPLIFIER COMPANYのマスタービルダー、篠原勝氏とのインタビュー。日本の(唯一の)ブティックアンプメイカーとしてアンプを作る楽しさやきっかけなど様々なテーマについて語ってくれています。
アンプを作ろうと思ったきっかけを教えてください。
アンプを作ろうと思ったきっかけは2つあります。
コンサートの現場でプロミュージシャンのギターテックをしていたときに思いつきました。現場で真空管アンプが壊れたりトラブルが起こったときに、それを直せる技術を身に付けたくて、真空管の動作、真空管アンプの原理などをほぼ独学で学びました。一流ミュージシャンに同行するツアークルーとして、自分自身も一流になるべきだと思ったのです。
真空管のことや真空管ギターアンプのことを学んでいるうちに、アンプ製作の文献などを参考にしますので、自然とアンプを作ることに興味が湧くようになりました。そこで、現場を知り尽くしたギターテクニシャンが真空管ギターアンプを作ったら、現場の視点から見たものができるのではないかと思ったのです。

もうひとつは、精神的なことなのですが。「人に感動を与える仕事をしたい」。
一見、アンプ作りとは関連性はないように思うかもしれませんが、私は関連付けています。私はギターテックの仕事をしているとき、ステージの袖からミュージシャンが演奏しているのを見ています。そして観客が感動している瞬間を目にして、ミュージシャンがそれを受けてまた、良い演奏するという、相乗効果が起きます。
その中で少しでも自分も協力したいという気持ちです。自分で作ったアンプがPAシステムを通り観客席になり響き、観客の声援が聞こえてくる。間接的にですが人に感動を与える仕事ができていると思っています。私自身、日々いろんなことに感動する人間なので、私なりにできる方法で人に感動を与える仕事がアンプ作りなのです。曲や詩を作れませんので、映画監督もできませんし。笑
アンプ作りで最も重要だと思うこと、心がけていることを教えてください? 製作過程において特にこだわっていることがあれば教えてください。
Point-to-pointによる作業なので、ハンダ付けが特に重要だと考えています。一見簡単そうに見えるハンダ付けですが、追究すると、実はとても奥が深くて難しい作業です。やればやるほど、その難しさに気が付きました。
ハンダ付けする温度が重要。ハンダのこて先の温度を360度固定にしてハンダ付けするようにしています。高い温度はハンダが溶けやすいですが、後からハンダ不良となることがあります。ハンダの温度が最適でもハンダ付けが上手くできないと、これも後からハンダ不良となります。特にリード線やワイヤーが多く絡むところは、ハンダをしっかり流し込まないといけません。
ミュージシャンのツアーでギターテクニシャンをされている経験があるからこそ、アンプをデザインするときに耐久性や信頼性は重要な要素だと考えますか?
現場での機材トラブルはいろんなことに影響を及ぼします。開演時間を押したりすることも考えられます。各セクションのスタッフに対しても影響が出てきます。そんな状況下で仕事をしてきたので、耐久性は重要と考えるようになりました。
そして自分が作ったギターアンプと共にツアーに同行することも多いので、ステージ袖から見ていて、自分の作ったアンプがトラブルなるわけにはいきません。SHINOSアンプには、現場でギターテクニシャンをしているからこそ生まれたアイデアが詰まっています。一番工夫した部分は、アンプのバックパネルにデジタル表示のバイアスメーターを付けたことです。これにより、ユーザー自身、あるいは現場のギターテック達が、自分でバイアス調整することができるようになりました。 自分自身も、現場でギターテックとして仕事をしているときに、ギターアンプの真空管が壊れてしまい、予備の真空管はあるけど、バイアス調整用の測定器が無いので、バイアス調整ができないということがありました。ならば測定器をアンプ自体に付けてしまえばいいのでは?そしたら誰にでもバイアス調整が可能になる。真空管を交換するのにわざわざ、ショップに出さなくても良いということになります。この自分の作ったアンプと共にツアーを回るという経験は、私の中では非常に精神的に鍛えられました。今でもそれを続けています。
他のアンプを修理している時に、自分自身もビックリ/感激するくらいのアイディアが降ってきたことはありますか。ご自身のアンプ以外で個人的に好きなアンプを教えてください。
Vox AC30、Matchlessは整流管を使用しています。私も整流管使用のアンプに魅力を感じていましたが、整流管自体が故障してしまうことがあります。そこで、私はShinos Amp Luck6VにGZ34を2本並列で使用することにしました。これによりLUCK6Vは整流管によるトラブルはありません。個人的に好きなアンプはFender Deluxe Reverb、Matchless DC30などです。

個人的にどんな系統の音楽が好きですか。影響を受けたり、感銘を受けてきたサウンドを教えてください。
Rock musicに影響を受けてきました。The Rolling StonesやThe Beatlesをはじめ60年代から70年代の音楽、Led Zeppelin、80年代ではU2、The Police、Red Hot Chili Peppersなどの音楽に影響を受けました。すべてのバンドの生の音を聞いたわけではないですが、ここに上げたバンドからは、ギターサウンドに感銘を受けています。
サイレントアンプに関して教えてください。
自宅で録音をするときや、イヤーモニターを使うライブ現場などに適しています。自宅録音では、ギターの録音はプラグインなどを使うことが支流ですが、本物の真空管アンプの音で録音をしたいときに、サイレントアンプは活躍してくれます。キャビネットは18ミリ厚のバーチ材と、0.3ミリの鉛シートと吸音材で組まれています、内部には10インチのJensen speakerとShure SM57がマウントされています。Amp headは、power tubeに6V6を2本使用した20Watt出力を持っています。Pre-ampはECC83を3本使用しています。クリーンサウンドから真空管をオーバードライブさせた音まで幅広い音づくりが可能です。BOOST SWITCHをONすることで、TUBE OVER DRIVEを得ることが出来ます。

エフェクターのデザインはどういう発想でされますか。コンパクトエフェクターシリーズとチューブ・アンプ/エフェクター以外に、アーティスト用にカスタムメイドもするのですか。
VTDは真空管アンプと全く同じ作り方で、パワーアンプ部分が無いだけです。本物の真空管がオーバードライブしたサウンドになります。一方Blue Tongue Seriesは、ICを使用したオーバードライブペダルになります。こちらはギターリストと共に設計しており、通常のSHINOS製品の製造ラインとは別で作られています。大きさも一般的なペダルサイズなので、セッティングがしやすいでしょう。アーティスト用のカスタムメイドを行ったことはありませんが、VTDをカスタム使用にアレンジすることはあります。

Shinosを立ち上げてからもうすぐ15年になるかと思いますが、日本の(唯一の)ブティックアンプメイカーとして存在することが難しいと感じたことはありますか。
国内ギターメーカーに比べると、圧倒的に国内ブティックアンプメーカーは少ないので、国内メーカーどうしでの競合争いになりません。国内でのブティックアンプは海外のメーカーが支流なので、日本製のブティックアンプメーカーShinosを知ってもらうこと自体、難しいと感じることはあります。最初は楽器屋の店員さんだって、誰もShinos AmpPを知らなかったわけですから。
現在のアンプ市場のトレンドなどで気になる点などあれば教えてください。Nu-Tubeや極小アンプ、モデリングアンプなどに関してはどう思いますか。
Nu-Tubeはとても興味があります。SHINOSでもペダルに使用してみたいです。The ultra-compact ampsは良いアイデアだと思います。サイズを小さくするというのは、どこの分野のビジネスシーンでも活用されていることですから。最近は音のクオリティーも高いなと思います。モデリングアンプについては、凄く進歩したと思います。PAや照明機材は完全にデジタル時代に入ってますから、ギターアンプもそういう機材が出てきても当然ですね。アナログな真空管を使ったサウンドとどっちが好きかは、個人の好みになってくると思います。





今後のSHINOSの展望を教えてください。
日本国内でももっと幅広くSHINOS AMPを知ってもらいたいです。そのためには、実用的で、多くのお客様がご購入できる価格帯のアンプも作りたいと思っています。その準備も進めているところです。そして、もっと大きな表舞台にも出たい、日本という島国の中だけでの活動ではなく、世界に出て活躍したいです。昔と比べて日本人メジャーリーガーも増えましたよね。楽器だって負けてられません。そのための活動がThe NAMM Showへの出展に繋がります。SHINOSはThe NAMM Show 2020は鬼門の3回目の出展となります。まずは、サウンドを実際試奏して確かめてほしいと思っています。そのために、前回のThe NAMM Showからは防音ブースも設置しています。近い将来、世界で活躍しているブティックアンプメーカーになりたいです。